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研究業績

RESEARCH WORKS
2017.04.25

バイオテクノロジー 1999

『バイテク・センチュリー』 ジュレミー・リフキン著,鈴木主税訳,集英社

 

ひとりの人物が研究室にこもって,日夜,実験をしている。ある日,とうとう研究が完成する。スイッチを押すと,強大な力をもった怪物が起きあがる。その人物はこう叫ぶ。「これで,地球は私のものだ!」この類のシーンは子ども番組ではお馴染みである。地球制服をたくらむ科学者は最初から悪者である。しかし,もしも社会がその技術を待望していたら? 本書を読んでいて,空おそろしさを感じた。

今,生命を操作するバイオテクノロジーが,コンピュータと結びついて,生物の遺伝子をすべて解明できるようになった。ゲノム(遺伝子のセット)の地図づくりと,遺伝子を構成するDNA(のすべての塩基配列)の特定化が進んでいる。こうして,遺伝子を効果的に操作し,異種の組み合わせを無限に試すことができる。じっさい,農業をはじめ,園芸,畜産業,漁業,鉱業,製造業などに,バイオテクノロジーが応用されている。この動きに遅れまいと,ライフ・サイエンス関連会社や大企業は巨額の投資をおこない,特許権でもって遺伝子情報を私物化しつつある。

人類の遺伝子も例外ではない。個々人のゲノム情報の特定化は,そう先の話ではない。どの遺伝子がどんな疾患や,どのような能力に関わっているかが分かるようになる。そうなると何が起こるだろうか。疾患があれば治したい。能力だって著しく改善したい。こういう思いが高じていくと,きずも欠点もない完全な人間への欲望がますます膨らんでいく。再生技術を用いて,頭のなしの身体を作り,拒絶反応なしに臓器移植ができる。クローニング技術と組み合わせて,死んだ子どもやペットと瓜二つのコピーをつくることも不可能ではない。この先に待っているのは,死も生もない世界であり,優生思想でおおい尽くされた「遺伝子差別社会」である。

以上の傾向を本書は幅広くフォローしている。まさか!と思うかもしれない。しかし,私たちが欲望に限界を設けないかぎり,本書の描く世界は正夢になる可能性はある。本書をとおして,未来の世代のために考えるべき事柄はじつに多い。